ある日私が待合室で体温を計っているうちにうとうとして水銀体温計を落として割ってしまったら、母が慌てて私を叱りつけたんです。
すると病院を手伝っていた先生の奥さん(高木ブーさん似)がほうきとちりとりを持ってすっ飛んできて「お母さんがちゃんと見てあげないとダメでしょ!」と母を怒鳴りつけました。
母は他人に怒鳴られるなんて初めてのことで呆然としているし、私は病院のおばさんが怒鳴っているのが怖くて泣いてしまって、その間におばさんは割れた体温計をテキパキと片付け、「お母さんがしっかりしないとお子さんが不安になるから」と母に新しい体温計を渡し、いつまでも泣いている私の胸ポケットにガムを一枚入れてくれました。
母はこの日から病院の日になると憂鬱そうにしていましたが、私は胸ポケットにガムを入れてもらったのが嬉しかったもんですから、病院の日は胸ポケットがついている服を自分で選んで着て、早く行こうと母を急かしていました。
去年、実家に帰って近所を散歩していたら母が急に電信柱の陰に隠れたので、何事かと思っていたら「さっき、通り過ぎた自転車のおばさん。あんた見覚えない?耳鼻咽喉科の奥さんよ」と、もう五十年以上前のことなのに、まだお母さん、気にしてるんだと思ったら可笑しくて可笑しくて。
何故そんな話を急にしたかと言えば、手編みのスカートにつけるポケットを編んだから。ポケットをスカートにくっつけて飴を2,3個入れてって想像しているうちに、ポケットの話を書かずにはいられなくなってしまったんです。
小さい巾着の中には「ご自由にお持ちください」の箱に入っていたアメジスト。ディアゴスティーニでしょうね。数ヶ月買ったはいいけど飽きたっぽい。特に欲しくもなかったけど、ご自由にというので。