『ラマの毒汁』
いつだったか忘れてしまったのですが、オットと結婚する前で週に一回はデートしてた頃だから1990年代前半でしょうか。
上野動物園のラマに喧嘩を売られました。
それまで檻の奥の方で微動だにしなかったラマが、オットが檻に近づくなり駆け寄ってきてうっとりした目でオットを見つめているんですよ。
オットがちょっと横に動くとちゃんと寄ってくるんです。
ラマに好かれる男ってどうなの?
私がいくら動いても無視。
これならどうだとオットの前に立ちはだかったら、いきなりビュッと何かを飛ばしてきたんですわ。それが私の顔面に命中。
くさい!猛烈にくさい!べたべたする!
ヤツら、気に入らないことがあるとツバ吐くんだって。先に言ってよ!
(後で確認したら立て札にちゃんと書いてあった)
タオルで拭いたらタオルが臭くなるから水道のとこまで走って顔を洗ったんだけど、なっかなか取れないの、ニオイが。前髪にもべったりついちゃってもー。冬なのに冷たい水で洗いましたよ。それでもくさい!
その間ずっとオットはラマと笑いながら何か喋ってました。
タオルはオットが持っていたので取りに行こうとしたらラマがキッとこっちを睨んで、あの毒液を吐く準備をしてるんです。
なんで。私が何をしたの?あんたが見とれているその男、私の彼氏で、しかも今無職だから上野動物園の入園料もここまで来る電車賃も全部私が出してんだよ。
帰りに美味しいパン屋さんに寄って試食しようと思ってたのに、こんなにくさいんじゃお店にも入れない。
オットはひとりでパン屋さんに入って思う存分試食をして何も買わずにお店から出てきて私のニオイを嗅ぎ「うあぁまだ臭いし髪の毛濡れてる!早く家に帰った方がいいよ!僕はひとりで帰るから!」とさっき渡したパン代を電車賃に代えてホントにひとりで帰ってしまったのです。
それにしてもホントに臭くて、電車に乗らずに上野から荒川の実家まで歩いて帰ったよ。歩いても歩いてもずっとラマが追いかけてくるの。
家に帰っても家族に「どこでなにしてきたんだ」って言われるし。
当時はオットとつきあっていること家族に内緒だったから、ひとりで動物園に行って、ラマにツバひっかけられたと説明したら、家族が「うちの子、大丈夫なのか?この年になってデートする相手もいないのか」と本気で心配してねぇ。って、そっちの心配かよっ。っていうか、早く私を家に入れて。
母はちょっと待ってと奥に引っ込んで銭湯セットを持って出てきました。
うちに入る前に銭湯行ってこいって。イヤだよぉ。臭いから上野から歩いて帰ってきたんだよ、こんなんで銭湯行けるワケないじゃん。銭湯は実家の向かい。徒歩7歩。絶対行けない。
写真はラマにモテモテだった頃のオットとラマにオットを奪われた妻。
このバカ夫婦、ピースしてますよ!しかも顔が暗くてよく見えないじゃないか。(どっかの駅で通りすがりの人に頼んで撮ってもらった)
2010年11月8日掲載