2017年11月20日月曜日

第5回はじめての経験

『料理』

変な時間に料理の写真を見せられて、しょっちゅうお腹をすかせているもみさんからのお題です。

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我が家に「日曜の朝は順番で昼ごはんの支度をする」という決まりが出来たのは私が小学5年の夏休み。

それまで長屋に住んでいて台所もどんな台所だったか思い出せないくらい小さな台所で、子供は歯磨き以外は台所に長居させてもらえなかったのですが、小学5年の夏休みに父が突然家を買いまして、そりゃ新築の一軒家ですから台所も広い。あの時は家族で毎日お祭りみたいにはしゃいでました。


ちょうどその年に始まったのが「世界の料理ショー」ですよ。

長屋にいた頃は「うちは台所が狭いからこんな料理作れないよね」なんて話していたんですけど、新しい家には世界の料理ショーほどではないけどじゅうぶん料理出来るスペースがある!

父が最初に言い出したのです。
来週から日曜の昼は順番でごはんを作る、と。

第一週は母が作りました。これはいつも通り。
第二週が父だったんですけど、もう前の日からワイン買ってきちゃって。
昼ごはんを作りたいんじゃなくてグラハム・カーみたいにワイン飲みながらかっこよく料理してみたかっただけじゃん。食パン焼いてお湯を沸かしてコーヒー入れただけだったし。

そして私の順番が回ってきました。

子供ですから何が食べたいかは決まってたんですけど、準備があるってことをすっかり忘れてました。(というか知らなかった)

えーと、作ったのはアレなんて言うんだろ。
予定では煮豆だったんですが、大豆をですね、水で戻すという下準備を怠っていたのですよ。いきなり鍋に切った野菜と乾燥大豆を入れてよーく炒めて水を注いで、醤油とみりんとお酒を入れて煮た。

誰かが作っている時は他の人は口出ししないという決まりもあったので家族は料理が出てくるまでは私が何を作っているのかわかりません。

いつまでたっても豆が柔らかくなりません。
そのうち世界の料理ショーが始まったので、ごく弱火にして台所を離れ家族と一緒にテレビを見ました。

母「ちょっと、これ終わったらちゃんとごはん出来るの?」
私「今、煮込んでるから
妹「なんかいいにおいしてきた」
私「煮込み料理だからね」

番組が終わって台所に行くと、なんだかそれっぽく出来ている。
ちょっと味見をしたら、おや?意外と美味しいぞ。
何故ならそれは汁だけしか味見してないから。

大皿に盛って、さっきグラハム・カーがやってたみたいに二本のスプーンで小皿に分けて、それではいただきまーす。

母と妹は口にふくんですぐに「堅っ!!」と出してしまったのですが父は堅い大豆をガリガリを噛み砕いて「ちょっと堅いけど美味しいよ」と言ってくれたのです。

母と私と妹は大皿から豆をよけて野菜だけ取って食べました。
父は残った豆を全部ガリガリ食べてくれたのですが、この時歯を一本折ってしまいまして。

父は歯が丈夫で現在も一本も虫歯がないのです。
七十数年の間に歯医者さんに行ったのはこの時だけ。

この日から私はますます父が大好きになり、母とはどうもうまくいかなくなったんでした。

そして「日曜の昼は順番でごはんを作る」という決まりはやっぱり母が作るのが一番美味しいってことで一巡で終了となりましたとさ。

2010年11月24日掲載